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広島高等裁判所 昭和56年(ネ)227号 判決

控訴人(原告)

岡田芳洋

被控訴人(被告)

広島県

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金一八〇六万四〇一三円及び内金一六四六万四〇一三円に対する昭和五三年九月二〇以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、証拠として、控訴人が甲第一九号証を提出し、被控訴人が右甲号証の成立を認めると述べたことを附加するほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決六枚目裏四行目の「検証の結果」の次に「及び自動車損害賠償責任保険広島調査事務所に対する調査嘱託の結果」と加える。)であるから、これを引用する。

理由

一  昭和五三年九月二〇日午後七時一〇分頃、広島県佐伯郡佐伯町津田、掛橋東詰の県道上から、藤岡啓三運転の普通乗用車が小瀬木野川の川原に転落し、助手席に同乗していた控訴人が負傷する事故が発生したこと及び右県道が被控訴人において設置、管理する道路であることは、当事者間に争いがない。

二  いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第七号証、乙第一号証、本件事故現場を撮影した写真であることに争いのない甲第六号証の一ないし四、原審における控訴人及び被告藤岡啓三各本人尋問の結果並びに検証の結果を綜合すると、次の各事実が認められる。

(一)  本件県道(本多田―佐伯線)は、事故現場付近では佐伯町津田方面から佐伯町浅原方面に通ずる非市街地を走る平坦な舗装道路(車道部分の幅員約六メートルで黄色の中央線によつて二車線に区分される。)で、やゝ上り勾配になつており、最高速度は時速四〇キロメートルと指定され、掛橋東詰に向つて事故現場付近までは林川に沿つてほゞ直線をなし見通しは良好であるが、右橋の手前から幅員が狭くなり(橋上の幅員約五・五メートル)、かつ右に大きく湾曲している。

(二)  本件道路の前記直線部分の左側路肩には幅員減少及び右方屈曲ありの各標識が立つており、かつ道路に沿つてガードレールが設置されているが、本件事故当時、右ガードレールは掛橋東端から東へ六・一メートルの地点までで終つており(すなわち、掛橋東端の欄干とガードレールの西端との間には六・一メートルの間隙があつた。)、右間隙部分の道路外側には、若干の砂が積んであつた。

(三)  右道路の左側車線部分を掛橋東詰に向つて進行した場合、前記右方屈曲ありの標識があるほか、道路左側端の白線(車道と路側帯との境)及びガードレールが掛橋の手前から次第に右に(掛橋に向つて)屈曲しており、かつ右ガードレールの更に左側は一面に雑草等が繁茂しているので、同所で道路が右にカーブしていることは容易に認識できる。

(四)  藤岡は、それまでに本件道路を五、六回は通つたことがあり、本件事故当時は友人方に遊びに行くべく、佐伯町津田方面から浅原方面に向つて右道路を時速約八〇キロメートルで進行し、掛橋手前に来てハンドルを少し右に切つてカーブを曲ろうとしたところ、雨上りで道路が濡れて滑り易い状態であつたため、後輪が左方に横滑りし、前記掛橋とガードレールとの間から路外に飛び出し、崖の上を二〇メートル余り進んで約五メートル下の川原に転落した。

以上の事実が認められ、前掲藤岡啓三の供述中右認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

三  上記認定によれば、本件事故は、藤岡が雨上りで滑り易い道路状況にもかかわらず、制限速度四〇キロメートルの二倍もの高速でカーブ地点を進行したため、カーブを曲り切れず横滑りの状態で道路外に飛び出し、転落するに至つたものであり、一方的に藤岡の過失に起因するものであることは明らかである。そうして前記認定の道路状況に照せば、本件県道の事故現場付近では、運転者が通常考えられる速度と方法とをもつて、すなわち制限速度四〇キロメートルないしこれを多少上まわるとしても六〇キロメートル以下で、左側車線部分を進行していれば、たとい掛橋東端欄干から東へ六メートル余の地点までの間にガードレールが設置されていなくても、カーブを曲り損ねて右間隙から路外に飛び出すような事故が発生することはありえないものといわねばならない。藤岡は、本件事故原因に関して、原審における本人尋問では、「事故当時現場は霧がかかり、ライトを照しても先がよく見えない状態で、橋のセメントの色と、砂の置いてある方を見ればガードレールの切れたところが道路のように見え、進行できると思つた。」旨叙上の認定、判断と異る趣旨の供述をしているが、前掲各証拠及び上記認定事実に徴し、右供述部分は措信できない。のみならず、仮に藤岡が真実、右のように(ガードレールの切れているところが道路のように見え、進行できると)錯覚したとすれば、前記認定の道路状況から判断して、同人は霧で前方がよく見えない道路を高速で、しかも中央線上ないし中央線の右側部分(対向車線)を走つていたものといわざるを得ず(その場合にはじめて、同人の進行方向の正面が丁度ガードレールのない部分に当り、その先に道路が続いているように見えたという状態になりうる)、中央線の左側部分を普通に進行していれば、そのような錯覚を生じることは通常考えられないところである。確かに、掛橋東端欄干に接着するまでガードレールが設置してあれば、本件事故は起らなかつたであろうということは言いえても、それだからといつて、前述のような無謀運転をするものがあることまでを予想して、ガードレールを設置しなかつたことをもつて道路の設置、管理に瑕疵があるものということはできない。本件県道は、本件事故現場付近において、道路が通常備えるべき安全性に欠けるところはないものというべきであるから、右瑕疵は認められず、控訴人の本訴請求はその余の点について判断を加えるまでもなく、失当として棄却を免れない。

四  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 土屋重雄 大西浅雄)

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